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『歓びを歌にのせて』
[感想 -COMMENT-]

観ている時はドイツ映画かと思っていたのですが(←根拠なし)、2004年公開のスウェーデン映画でした。 2005年のアカデミー外国語賞ノミネート作品です。
スウェーデン映画として本国では大ヒットしていたみたいです。全然知らなかった。

さすがはアカデミー賞。素晴らしいドラマです。

主演は「ミレニアム ドラゴンタトゥーの女」のミカエル・ニュクビスト。
このミカエルさん演じるダニエル・ダレウスは世界的に有名なオーケストラの指揮者だったけど、演奏中にぶっ倒れて死ぬかと思った事がきっかけで、指揮者を隠居して故郷の田舎に籠ろうとします。
しかし、世界的に有名な人が突然やって来た事で浮足立つ街の人達に促されるまま、ダニエルさんはキリスト教会の聖歌隊の先生を引き受けてしまいます。

ダニエルは練習の中で聖歌隊に、彼ら自身の感情をどんどん表に出すようにしていきます。

それは歌うための練習なのですが、今まで田舎町の教会という共同体の中でお互いに感情を出し合う事なく、慣れ合っていた、しかもキリスト教の教会という厳格な世界に身を置いていた彼らには刺激が大きかったようで、ダニエルと彼の練習法は彼らを虜にします。
その結果は想像を超えて大きくなり、聖歌の練習は、彼らの生活そのものを変えていく事になります。

そして感情と同時に、聖歌隊の人が持っている心の傷をも解放してしまう事になります。
今まで何十年も押さえていた感情を表に出す事が出来た人、その様子を見ていた事で自分も変わる事が出来ると感じた人。

しかし厳格なキリストの教えを守り、感情のままに生きる事を拒み続けてきた人もいます。
そんな彼らですら、ダニエルによって変化していきます。

やがて彼らは自問します。

欲望を解放してしまう事で、キリストの教えに背いてしまうのではないか、いや、本来キリスト教はそんな事を教えていない、キリスト教の隣人愛は欲望を抑えるという事じゃないと考える人が対立するのです。

ダニエルのおかげで教会は大混乱です。キレる神父。キレる信者。
しかし、いい事もあります。
いままで感情を押し殺し、夫のDVに耐えに耐えて来た女性が、暴力夫から逃れて自立する決心をします。

当然怒って教会に怒鳴りこんでくる暴力夫。
だがしかし、色々乗り越えてって結束が固まった聖歌隊のメンバーにとって、もう以前のように観て見ぬふりが出来る事ではありません。
結局諦めて帰って行く夫。スカッとする場面です。

夫は今度は、怒りをダニエルにぶつけようとしてきます。殴られても、やり返そうとしないダニエル。それどころか、この夫にたいして「僕らは同級生だ!」と仲直りしようとさえします。
まさに隣人愛。

また、不倫医師に騙されて男を信じられなくなった女性が、恋をします。

そして女性はダニエルに言います。
あなたに羽が見える。みんなにも見える、と。

ダニエルは聖歌隊の人達に音楽を教えるだけでなく「告解」という事をさせたのではないでしょうか。
否、ダニエルはまさにキリスト教徒としての本来の生き方を教えようととしたのです。

でもダニエルは天使のように見えても、人間です。
しかも自らの死期が近い事を知っています。
聖歌隊は、ついに夢の舞台オーストリアでのコンサートに招待されます。
それはダニエルにとっても最後の大仕事の舞台でもあるのです。

そして・・・

とまあ、こんな感じの内容でした。感想というかスジを言っただけですが、凄くいい映画でした。
ラストもなんとも言えない感じで良いです。
ラストシーン、非常に意味深な終わりではありますが、余韻を残さずスパッと終わっているので、色々と想像するがよい、という事なのでしょう。その潔い終わりがまた良いです。

でもやっぱり登場人物達の後日談が凄く見たいと思った映画でした。



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