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『ハート・ロッカー』
[感想 -COMMENT-]

アカデミー賞映画「ハート・ロッカー」を観た訳です。
感想は、先に書いてしまうと誤解を受けるかも知れないので、後に書きます。

まず、この映画はイラク戦争時(2004年)のイラク・バグダッドを舞台にした、アメリカ軍の爆弾処理班(ブラボー中隊)の話です。
ジャンル的には、スティーブンスピルバーグの「バンド・オブ・ブラザーズ」のように一つの小隊をひたすら追っていく、所謂コンバット物という構造になっていて、戦争映画的な作りになっています。

しかしこの映画で登場する主人公達の部隊は「爆弾処理班」なので、戦争映画と言っても派手な打ち合いが延々続くという場面はあまりなく、次々と登場する様々な種類の爆弾をひたすら解体していくという話になっています。
もっとも、湾岸戦争を舞台とした映画「ジャーヘッド」のように、一般兵が結局銃を撃ちたいのに全然撃たせてもらえないという映画や「地上(ここ)より永遠に」のように全然戦闘シーンの無い映画に比べたら銃撃戦あり、迫撃砲あり、おまけに狙撃までありと、火薬量は贅沢に使ってくれています。

しかし重要なのはテーマといえる「爆弾処理」

過去、映画に置いて「爆弾」いえば、爆発するか、赤か青のコードを切らない限り爆発するか、残り時間僅か・・・といった緊迫感のある場面で出てくるのが定番です。

この映画ではありとあらゆる爆弾が出てきます。

おまけに敵は、民兵(兵士と普通の民間人と全く区別が付かない)なので、誰が敵なのか分らないという状況です。

さらに人間爆弾・自爆テロと、ありとあらゆる手段を講じて爆弾を爆発させようとするのです。
これほど怖ろしい事はあろうか。

しかし、この映画ではどちらかと言うと戦争映画よりは、「24」の方が近いという感じがします。臨場感を出す為に早い動きでカメラを動かす演出は、まさに24です。
そして主人公の性格も、正義感が強く無茶な所はジャックバウアーに似ています。
でも、24はリアルタイム演出が原則なので、スローモーションが出来ません。
そこが違います。
爆発の瞬間、揺れる地面や爆風に煽られる瞬間、または銃を撃った時の薬莢が地面に落ちる瞬間・・・スローモーションになる演出は、なかなかです。
本当に女性監督の感性なのかと思わず疑ってしまうハードボイルドタッチです。

もうひとつ、24の場合はテロリストが外の国からアメリカに入ってくるのに対し、ハートロッカーはイラクそのものが舞台となっているという事でしょうか。
・・・つい話がそれましたが、アメリカとテロとの戦いを描いた映画や、自爆テロとの戦いを映画いた映画は他にも数多くあります。
「キングダム/見えざる敵」や「ワールド・オブ・ライズ」「ザ・インタープリター」などです。

さて、無事に任務を終えてアメリカに戻っても、兵士たちはPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされます。 そしてあるものは、また任務に戻っていくのです。

この辺り、アメリカに戻ってスーパーでシリアルの箱が膨大に並んでいるのを見た主人公が 呆然としている所が、「キャスト・アウェイ」で無人島から還って来たトムハンクスと同じように感じます。
因みに「キャスト・アウェイ」は僕が最も好きだった映画の一つですが、ここも観ててなんともやりきれない思いに駆られます。

ただし、この映画はあくまで「アメリカ軍の兵士」側の視点です。
つまり敵側に対してはただ「プライベートライアン」のドイツ兵や「父親たちの星条旗」の日本兵同様にただ敵でしかないので、そこだけは気に留めておく必要があるのは確かです。

イラクではアメリカ軍もまた、クラスター爆弾を使っているという事に関してここで語る事ではないのですが、キャスリン監督には、いつかは逆側の視点でも描いて欲しいという気がします。

というわけで、僕の感想は、映画としては目新しい演出ではないですがそんな事はどうでもよくって、ひたすら延々と続く爆弾解体の任務に明け暮れる終わりのない主人公達に感情移入すればするほど、こういう事実が現実として今もなお世界で続いているという事に気付かされ、激しく憂鬱になったという事です。

世界人類が平和でありますように



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